2019.5.23

 

2018年のシーズン後半のことですが、「グリップが壊れた!」という報告が数件寄せられました。

自分自身でこれまで数年使ってきた経験からしても、それなりにかなりのヘビーユーザーのはずなのですが、見た事のない壊れ方でして、最初ちょっと信じられなかったわけです。ただ、お話を伺うと主に茨城県の鹿島灘や静岡県の遠州灘など、外洋に面した砂浜でのハマグリ掘りに使用中とのこと。確かにそのようなポイントではあまりテストしていませんでしたし、想像するにキメの細かい砂が波で固く締まった砂浜で、かなり抵抗も大きそうです。しかも最近それらの地方のユーザーさんが増えてるような気もしますし、今後そのようなポイントでの使用が増えるのかも、というわけでグリップの強化を検討することにしました。

またいろいろ調べてみると、2017シーズンから採用していた黄色のウレタン樹脂がそれ以前のアイボリーやダークグレーの樹脂よりも強度が落ちているのかもという疑いも出てきました。なので形状の再検討とともに、使用する樹脂も見直すことに。

​形状については、まあ単純に弱いところを補強します。図のオレンジの部分を盛る形。破損した写真はどれもグリップ本体と扇型の部分との接合部がビス穴を起点にして裂けてますので、ビス穴まわりを一番厚くしながら入り隅を埋める感じで。ただし握った際に邪魔にならないように、というか指に変に干渉しないように何度か試作品を作って調整しました。

樹脂は今回からABS樹脂(的なヤツ?)を採用することにしました。これまでのウレタン樹脂と比べると、曲げ強度や耐衝撃性などがかなり向上するようです。またベースが真っ白なので色の自由度もありそうで良いですね。それに伴ってマスターやシリコン型の作り方などなど、かなり技術的にも改良というか進歩したのですが、そのへんは某工房の企業秘密ですので非公開です。とにかくそのあたりの試行錯誤のために思いのほか時間がかかってしまいました。ホントはシーズンに入る前に投入したかったのですが。

​色については当初オレンジを検討していたのですが、いまひとつ発色が鮮やかではなく、濃くするとなんか鉄錆色っぽい色合い。ちょっと悩みましたが、それをごく薄くして淡いサーモンピンクにしてみました。

いずれにせよこれで以前のものよりはかなり強くなったと思います。

報告のあった破損に対してだけではなく、ビス穴が馬鹿になりにくくなったりという効果も。ただしまだ実地でのテストは十分に行ったわけではありませんので、本当に硬い砂に耐えられるかどうか、ユーザーの皆さんからの報告なども受けながら今後検証していきたいと思います。

 

2020.2.29

追記です。

2020年はもともと特に仕様変更などはしないで、19年版をそのまま継続しようと考えていたのですが、え〜、まあいろいろありまして、グリップをこれまでのシリコン型を使った注型から金型を使った射出成形に切り替えました。
以前から品質にいまいち納得できなかったりとか、生産量と納期が思ったようにいかない(これが一番問題なんですよね、なにせ季節物の商品なので。)とかの問題があって検討はしていたものの、とにかく金がかかる!のでまだ無理かなあと躊躇してたんですが、今回なにかと使えるメーカーさんが見つかったことでなんとか実現しました。

そのメーカーがこちら。神奈川の会社です。
PROTOLABS

これまでは地元福岡の業者で探してたんですよ。モノの製造ってなにかと細かい調整が必要だし、こっちは樹脂成形についてはほとんど素人だし、やっぱり好きなときにちゃんと対面で打ち合わせのできるところじゃないとって思ってたんですが、ネットで見つけて試しにCADデータ送ってみたらもうね、一瞬で吹っ飛びました。
今までやりとりしてた福岡のメーカーと比べて格段にわかりやすくて、なにより話が早い。ここの持ってる解析システムによるところが大きいんですが、射出成形の際に生じる問題点をCADデータ上で超具体的にその原因や解決方法まで含めて指摘を受けて、同時に樹脂の種類や表面仕上げに連動した見積りも受け取れて、たまに必要があれば担当者と電話で打ち合わせ、さらにそれをふまえてデータを修正して再送すると、またすぐに解析結果が受け取れる。成形上の問題を解決するだけじゃなくて、デザイン上の調整とか金型費を安くするための変更とかも色々やって最終的にデータを4回更新して発注可能な状態になるのに20日もかかりませんでした。

それと金額でいえば金型費もパーツ単価も他のメーカーと比べるとたぶん半分以下になってると思いますが、これで今までと同じ値段で商品を提供できる目処が立ったわけです。今まで他のメーカーに話を聞いては「やっぱ無理なのか〜、、、」とグダグダ悩んでたのがホント無駄な時間でしたね。

というわけで最終的に発注した形がこれ。

射出成形特有の抜き勾配を付けるとかアンダーカットをなくすとか細かな修正はあちこち入っていて、それはそれでなかなか高度な技術を駆使してるのですが、一番大きな変更は正面の扇型の真ん中にあったクレーターがなくなったことでしょうか。それと刃を取り付けるビス穴はどのみちドリルで整えるので位置決めのマークだけに省略。この2点は金型に入れ子とか横スライドを仕込む必要があったのを無くすための変更で、このおかげでン十万円の節約になりました。
あとこれで完全に納得出来てるかというと実は妥協したところもあって、無くしたクレーターにも関係するのですが扇型中央部にどうしてもヒケと呼ばれる凹部が生じてしまう問題。下の実物の写真を見たらわかると思いますが、これはグリップの基本形状からして仕方のない現象で、最初の解析から散々指摘を受けていろいろ検討はしたのですが、抜本的に形を変える以外にはなにか造形的に誤魔化すしかなく、それには金型の横スライドが必要。なのでコスト面から泣く泣く諦めることに。
とまあこういう諸々が解析結果を見てすぐ判断できるのはホント大きいですね。

そして発注して20日ほどで納品。

個数チェック後の状態。
(こんなぐちゃぐちゃで納品されたわけじゃない

ですからね。)

使用した樹脂はABS。
実は昨年グリップを強化した際に使ってたのは2液性ウレタン樹脂の中の「ABSグレード」(要はABSと同等の強度を持ったもの)と銘打ったものだったのですが、今度はホンモノのABS樹脂です。そして射出成形ですからいわゆる熱可塑性樹脂になります。温めて液状になった樹脂に圧をかけて金型に注入し、冷えたら固まるというもの。

ということは、、、、こういう物も使えますね。

​焼きゴテ。

よく饅頭とか革細工とかに焼印を押すやつですが、樹脂用に温度調整機能が付いたものがあったのでそれを入手しました。ロゴを入れるのはCADデータを修正してる時から考えてたのですが、入れる場所によってはやはり金型に入れ子や横スライドが必要になってコストが跳ね上がりますし、今回射出成形に移行することでなにかこう「手作り感」が失われるみたいなちょっと残念な気持ちもあったので、こういう方法を採用してみることにしました。

ビス穴を開けてロゴを押すとこんな感じ。
ヒケも気になるといえば気になりますが、

使用上は特に問題ないしまあこんなもんでしょ。

さすがに品質のバラツキがほとんど無いので二次加工

も機械的にサッサと終わらせて、今年の分は準備完了。

こう一気に揃うと気持ちがいいですねえ。