2016.12.17

 

9月の終わり頃でしたか、当HPにとある漁協職員を名乗る方から問い合わせがあって、ハマグリ漁業者の負担軽減のために使えるのではないかと検討中とのこと。最初、というか何度かメールでやりとりしてもいまいち意味がわからなかったわけです。だって漁で効率良く採りたいならジョレンでもなんでも使えばいいのでは? なぜカイカキ? って思いますよね。まあ実際に掘ってるところを見てみたらわかるだろう、ということでとりあえず見に行ってみることにしました。

 

それとカイカキはやっぱりレジャー用の道具ですから、はっきり言って漁業用に使うには華奢です。年に数回程度の潮干狩りをより快適に疲れを少なくする目的で作ってますから、軽さや扱いやすさを重視してます。年間何十日、一人で何100kg? 掘るようなヘビーユースに耐えれるとはとても思えない。というわけで事前に聞いた情報から推察して、刃を強化した漁業用バージョンを試作して行きました。

10月の終わり。例年だと11月〜3月が漁期とのことですが、今年は潮の関係やTVの取材が入ったりとかの都合で、この日からスタートです。昼過ぎに出港。小型船で漁場まで行きます。漁場は漁港のすぐそばで、道路からも岸壁の階段を降りてすぐのところでした。歩いても来れるけど、まあ10kgもハマグリ抱えて帰ることを考えると船で来るしかないのでしょうか。あ、もちろん漁業権が設定されていて一般の潮干狩りの人は採ってはいけない場所ですので悪しからず。

 

ところでこの上半身というか頭まであるウエーダー? 面白いですよね。真冬に海水に浸かって掘るには確かに必要だろうなあ。

大潮の干潮2時間半前で水深は膝上ぐらいの場所です。最干潮時には干潟が露出するでしょうけど、話を聞く限り水没してるうちに掘って2時間ぐらいで終わるようなので、水中を掘るほうが楽なのでそうしてるんでしょうね。底に膝をついて右手に持った草刈り鎌(短いタイプのやつ)で探索、ハマグリが当たると左手で探って取り上げ腰の網に入れる、という感じで見る見る収獲していきます。

なるほど。大体わかりました。

 

漁場の場所や水深、砂質を考えると確かにこの方法が一番適してそうですね。特に高齢者や女性だと重いジョレンなんか体力的に厳しいし、しゃがみこんで小さな道具でゴソゴソ掘るのが効率的でしょう。それとなによりこの貝の密度です。ボクも試しにちょっと掘らせてもらいましたが、潮干狩り感覚でカイカキをひとかきすると大抵2、3個ぐらい4〜6cmの食べごろサイズのハマグリが当たります。

 

ジョレンを使わないことなども含めて漁期や重量をしっかり規制してるんでしょうね。資源管理が上手くいってるようです。これだけ数がいればむしろジョレンなんか使うより小さい道具のほうが効率的でしょう。カイカキを使う場合も、ボクらがやってる潮干狩りの時のように「抵抗が大きくなっても幅を広くしてとにかく広い範囲を探る」のではなくて、逆に「広い範囲を掘らなくていいから、幅を狭くしてできるだけ軽くサクサクと掘れるように」したほうが良さそうです。貝が少ないときは広い範囲を探るのがなによりのメリットになるんですが、そういう状況ではないわけです。たぶんハマグリ専用モデルをベースに、幅を15cmぐらいにする感じでしょうか。

それで最初に作った試作品はお蔵入りして、新たに幅15cmのハマグリ専用モデルを2本試作しました。前回はとにかく耐久性を持たせようと単に2mmのフラットバーを曲げただけでしたが、今回はちゃんとハマグリモデルとしてグラインダーで片刃に研ぎました。うん、案外普通に潮干狩りにも使いやすいかもしれませんね。曲げの工程がちょっと少なくて済むから作るのも楽だし。

それを持って2回目の試し掘りです。この日は前回の漁場より河口側に200mほど移動したポイント。天気は良いですが、ちょっと風があって内湾とはいえ波立ってます。しゃがみ込んで掘ってるとたまに顔まで波を食らいそうですが、まあみなさん普通に掘り始めました。でも女性とかおじいちゃん達は膝下ぐらいの比較的浅い場所、ちょっと体力あるおっちゃんは腿ぐらいの場所で掘ってますから、そのへんの影響はあるのでしょうか。

相変わらずハマグリ多いです。

ちなみにこのハマグリの殻が白く傷ついたようになってるのは、表面のエナメル質が溶ける現象で、この周辺ではけっこう多いとのこと。原因は砂質なんだそうです。酷いものは商品にならないので掘った端から仕分けしてました。で自家消費か近所に配る用、もしくは再度海に放流するかするみたいですが、なるほどそれによって資源が保たれてるのかもと思う反面、それが人為的な淘汰圧となって年々エナメル質の弱い個体が優勢になってきてるのではないか? という懸念もありますよね。どこか別の環境を整えた場所で畜養したりしたらエナメル質が復活したりしないのかな?

一回の出漁でだいたい2時間ぐらい掘るんですが、その収穫が上の写真のような感じ。13、4kgぐらい? と言ってましたが、右の大きい網が出荷用で左が自家消費用ですかね。さすがに潮干狩りとは桁が違います。

 

カイカキの方はずいぶん使いやすくなったと好評でした。特に某おっちゃんは開始10分ぐらいにカイカキに持ち替えてから、あとはずっとカイカキで通してました。コツをつかむのが早いんですかね。濁った水中を掘ってるので、実際に手元がどんな動きになってるのか言葉とジェスチャーで聞いて想像するしかないのがもどかしいんですが、そのへんが普段の潮干狩りと違って今回カイカキを勧めるのに苦労してるところ。しかもみなさん草刈り鎌を使うのに慣れてしまってますからね。カイカキに適した掻き方とか掘り起こし方とか左手の使い方とかを、それぞれで試行錯誤してつかむにはそれなりに時間がかかるようです。でもそのおっちゃんに話を聞いたもうひとりも、最後30分ぐらい使ってそこそこ調子よく掘ってたので、当事者同士で話をするとちゃんと伝わるみたいですね。ちょっとホッとしました。

 

で漁のあとその二人と話をして、さらに2cmぐらい狭くしたものを作ることになりました。

3回目の試し掘りは12月の初め。さすがにボクらの感覚ではとても潮干狩りをする季節ではないですが、この日は海も穏やかで掘りやすそうです。刃の幅は最終的に12.5cm。長さもたぶんこんなものでしょう。この先水温が下がっていくとハマグリが深く潜るようになるらしく、それを見越して若干長めに設定してあります。いまのところ4人ほど使ってみようという方がいて、一応これで暫定。いわゆるβ版ですが、まずは春まで使い込んでもらって、改良するところがあれば改良していくことにしましょう。

と、いいたいところだったのですがその前にひとつ問題が発生。

 

ちょっと強度や耐久性がどうかなあ、と最初から懸念してましたが案の定グリップが折れました。4、5日使ってる間に試作品の15cmで1本、それに暫定版でも1本。折れるかもなあと思ってたとはいえ、実物を目の当たりにするとちょっと衝撃的ですね。まあハマグリ掘るポイントは開発当初想定していたアサリのポイントよりもかなり砂が硬いし、しかも漁業用途で1日10kg以上掘る、で年間4、50日使うとなれば、さすがに所詮レジャーの潮干狩りとは根本的に違います。写真のは試作品で、折れた断面をよく見ると気泡で若干断面欠損があるので、それも原因のひとつではあるのですが、気泡のない暫定版でも1本折れてますから、たまたまというわけでもないでしょうね。

というわけでグリップも改良しなければなりません。

​(つづく)

 

というわけで追記です。(2017.2.2)

 

​ちょうど2017年シーズン用のグリップでは、これまでの2つのパーツを接着&ビス止めする形から一体成形に変更しようとしていたところでしたので、急遽形状も変更して、真ん中の肉抜きの部分に改めて上下をつなぐウェブプレートを厚さ6mmで追加することにしました。ビスがなくなる分を引いてもちょっと重くなる計算ですが仕方ないでしょう。まあ詳しく計算したわけでもないのでアレですが、これで捻ったときの応力は分散されて変形はかなり小さくなるはずです。また漁師の人たちに使ってもらって検証しましょう。もちろん漁業専用というわけではなく、普通のレジャー用のほうもこの形にします。何種類も作るわけにもいきませんから。

色については2016年用の反省から明るくて目立つ色、ということで黄色です。これはユーザーさんからも数件要望があって、干潟に放置されたものを見つけやすくするため。たとえば子供なんかよく置きっぱなしにしてどっか行っちゃいますが、どこに置いてたかなんてすぐわからなくなりますからね。ダークグレーとかだと探すのに苦労するわけです。で今年は黄色。某メーカーのカッターみたいですね。来年以降も明るくて派手な色を使っていく予定です。

一体成形化についてはボクはほとんど何もしてません。某工房が頑張ってくれました。鋳型が従来よりかなり深くなるわけで、マスターの切削は結構大変だったようです。シリコンも厚くなってかなりの量を消費します。樹脂を流し込むのもちょっと難易度上がったかも。まあおかげでグリップを組み立てる手間がほとんどなくなって、バリを落としてビスの下穴を開けるだけになりました。おかげさまで大助かりです。接着剤の劣化とかもないので耐久性もアップしてるでしょう、たぶん。

さらに追記。(2019.2.18)

​2017年末には漁師さんからの要望でさらに幅が狭くなりました。75mmです。もうこうなるとカイカキらしいメリットはあまりないような気もしますが、漁師さんにはこのほうが使い良いようです。腕への負担をとにかく少なくしたいのと、もう片方の手で貝を探って取り上げるのに幅が広いとどうしても手間取るから、ということでどんどん幅が狭くなりました。
まあハマグリ多いですからね。やたら広く掘る必要はないわけです。というか考えてみれば、道具を効率的なものに改良しないといけないというのは漁場が荒れて貝が減ったということですから、それよりは効率的な道具にしなくても貝が採れるような漁場を維持する、というほうがずっと本質的に重要なことです。ちょっと考えさせられますね。

まあとにかくそいうわけで、とりあえず漁業用モデルとしては一応の完成形でしょうか。

しかし1シーズン待たずに2×10のフラットバーがちぎれるくらい薄くすり減ってしまうんですね。ボクが2015年から使ってるハマグリモデルの試作品でも、断面の1割ぐらいすり減ったかどうかという程度ですが、やっぱり桁が違います。皆さんステンレスの刃の部分を次々に取り替えて使い続けてくださってます。ホント消耗品なんですねえ。

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